2010年2月21日日曜日

核廃棄物の処理にも使われるレーザー核融合

今回は常温核融合ではなく「高温」な核融合の話題です。
先日、米国の国立点火施設(NIF)で、レーザー核融合の実験に成功したとの報道がありました。

http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20100129001
核融合発電の実現へ、一歩前進
Ker Than
for National Geographic News
January 29, 2010

■引用開始
今回の実験では小指の先ほどの純金製シリンダーに燃料ペレットを格納し、それを目掛けて複数のレーザー・ビームを照射するという方法をとった。
レーザーのエネルギーはシリンダーに吸収され、X線熱エネルギーに変換された。X線はシリンダー内を四方八方跳ね回った後、最終的にあらゆる側面から燃料ペレットに衝突した。そしてX線を吸収したペレットは約3300万度まで加熱され、爆縮したのである。
この実験はレーザーによるシリンダーの加熱効率をテストする目的で行われた。したがって燃料ペレットはプラスチックとヘリウムが主成分であり、実際の燃料はほとんど使用されなかった。本来、水素の同位体である固体の二重水素と三重水素で作られたペレットが燃料となり核融合の点火に至るという。
■引用終了


核融合で有望と見られて多額の投資が行われている方式は以下の2つです。

  • 磁場閉じ込め核融合(MFE):トカマク方式に集約され、国際協力体制でフランスに実証炉を建設中(ITER計画)
  • 慣性閉じ込め核融合(IFE):レーザ核融合方式。米国NIFが最も進んでおり、フランスのLMJ計画も後を追う。(日本は阪大を中心に小規模高利得な別方式を研究)
米国は1990年頃まではITERを牽引するリーダーだったらしいのですが、1999年にITERから撤退したとのこと。レーザ核融合方式を有望と見たため投資優先順位を変更したのが原因と言われています。この経緯については、立花隆氏が2005年に「メディア ソシオ-ポリティクス」で詳しい記事を書いています(以下に残っています)。

http://blog.livedoor.jp/ayaka222a/archives/28485541.html
立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」
・第24回 国際熱核融合炉「ITER」 日本への誘致“失敗”の舞台裏
・第25回 1枚の写真が指し示すアメリカ「ITER」撤退の真相
・第26回 アメリカの最新核融合拠点 国立点火施設「NIF」の全容


また、以下のサイトに米国の両方式に対する投資金額の推移が載っており、1990年代後半には投資額がレーザ>トカマクに逆転しているのが分かります。なお、この2~3年で投資傾向が違ってきている原因は良くわかりません。

http://aries.ucsd.edu/FPA/OFESbudget.shtml
US Fusion Budgets for MFE and ICF


さて、冒頭の記事や立花隆氏の記事を読むと、レーザ核融合方式は驚くべき順調さで研究が進んでいるように見えますが、素人からすると、この実験成功の後、どのような階梯を登って実用化されていくのかサッパリ分かりません。
少し探してみたら、以下の報告書の中でLLNL(ローレンスリバモア研究所)のレーザ核融合プロジェクトのリーダー E.Moses氏の講演が分かりやすく解説されており、驚くような構想が書かれていました。

http://www.ilt.or.jp/forum/chousa/IAEA.html
22nd International Atomic Energy
Agency Fusion Energy Conference
(国際原子力機関 核融合エネルギー会議)報告
光産業創成大学院大学 学長 中井 貞雄 (元大阪大学レーザー核融合研究センター長)

驚いたのは、レーザ核融合を単体で発電に使うのではなく、レーザ核融合炉から発生する大量の中性子をウラン等の核分裂物質に当てて核反応を起こさせ、エネルギーを増幅するという構想です。
これはエネルギー利得を大幅に増大させるだけでなく、原子力発電所や廃棄核兵器から取り出された核廃棄物を「燃やして」しまい、低レベルの放射線しか出さない物質にして処理を容易にします。

■引用開始
2010年に物理実証の最終段階である核融合点火・燃焼・エネルギー利得実証を達成し、そこからの豊富な中性子を核分裂物質に導くことにより、さらにエネルギー増倍させるものである。これにより既存の原子力発電所より出る放射性廃棄物、天然ウランのみならず減損ウランまでも燃料とし、ワンスルーで埋設処理可能なレベルまで燃やしきるというものである。このコンセプトをLIFE(Laser Inertial Fusion Energy)と名付けて、NIFによる点火実証実験の後に続くものとして発表したのである。核融合―核分裂ハイブリッド炉の考えは、1951年頃よりザハロス(Sakharos)、ベーテ(Bethe)等により研究されてきている。
■引用終了

おそらく、原子力発電所や核兵器を多数抱える米国やフランスは核廃棄物の処理に困っている筈です。発電と核廃棄物の処理の一挙両得を狙えるとなれば、この研究に戦略的な投資をするのは当然と言えるでしょう。

熱核融合の方も、こんなにホットな状況になっているとは知りませんでした。

以上

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